マリリンとアインシュタイン - 「無意味」という意味

原題の「insignificance」は「取るに足らないこと」「無意味」の意味。日本には「諸行無常」っていう言葉がありますが、まさにそれ。自分の人生にタイトルをつけてみるとしたら、意外とこんな感じに落ちつくような気がしませんかね。

人生いろいろあるけどけっきょくのところ‥‥

この映画の主な登場人物は4人
邦題が「マリリンとアインシュタイン」となってることからもおわかりように、
ひとりはマリリン・モンロー(らしき女優)。
「らしき」というのは、
オフィシャルなキャストにはどこにもそうだとは書いてないため。
アルベルト・アインシュタインも同じで、
物語の設定としては明らかに誰と特定できるにもかかわらず、
誰だかわからない天才物理学者ってことにしてあります。
「マリリンとアインシュタイン」っていうのは
日本の配給会社がつけちゃったであろうチャーミングなタイトルなんですけども、
じゃ、
あとの2人は?
ジョー・ディマジオらしき大スター野球選手
と、
ジョセフ・マッカーシーらしき上院議員、
なんですが、
そんな人ら日本人はほとんど知りませんね。
わたしはこの映画を1986年、
封切り当時に博多の小さな映画館で観ましたが、
なんせインターネットがなかった時代、
パンフレット買ったくらいでは情報が追いつかず、
あとで調べようにも調べる術もなく、
ただでさえわかりづらい物語の意味がますますわかりませんでした。
4人の有名人が、
現実にはありえないけれども、
あったとしたらきっとこんな展開になったかなあと期待してしまう状況で、
それぞれがたいへんな状況を抱えながら吐き出しながら、
非常にめんどくさい時代を背景に、
不思議なめぐりあいと不条理な衝突に出くわすたった一夜の物語。
──人生っていろいろありますやん。
誰の人生もその人なりにたいへんで、
いろいろゴタゴタしてて、
いまがしあわせだったとしても、
子どものころに心に傷を負っていて、
いくつになってもその残像から逃れられないとか。
野郎3人はよいとして、
生きていく上でのそんな痛いところを全身で醸し出しているのがマリリン。
演じているのはテレサ・ラッセル。
誰よそれって感じで、
これ以外の出演作品も知りませんが監督の奥さんです。
オツムの弱い金髪女性の典型として描かれるマリリンですけども、
アインシュタインを相手に特殊相対性理論を解説しようとするシーンは秀逸。
かわいいし色っぽいし、
小道具がまた素敵で、
おしゃれ、おしゃれ、おしゃれ!
あー、
このまま何事もなく朝まで楽しくおしゃべりできてたらよかったのに‥‥

物語の途中で、
何か所か「血」が流れるシリアスなシーンがあります。
‥‥、
苦手ですし重いです。
現実のマリリン・モンローも痛すぎる人生で、
薬物乱用による精神不安や、妊娠と中絶のくりかえし、
不倫、離婚、謎の死‥‥、
この世を去ったときは36歳の若さでした(1962)。
そんなこんなを象徴する「血」が出てくる。
原爆投下を想起させる描写もあり、
日本が舞台として登場しますけど、
そこでもまたが‥‥。
女優の苦悩に天才物理学者の苦悩が重なって、
またさらに重い気分にさせられるんですけども。
それだけに、
ラストシーンのさわやかさ、
軽さがたまらなくいいです。
おしゃれ、おしゃれ、おしゃれ、
好きになってしまう無意味さですよ。

無意味じゃなかったと思いたい人生リセット

これ書いてて、
映画のことを調べているうちにいろいろ思い出してきました。
なんでこの映画が、
特別に頭にこびりついているのか、
われながらナゾだったんですけど。
感動するとか笑えるとか、
そういう映画でもないし、
他の人にはオススメしにくい一本なのに、
なぜか妙にこびりついて気になって忘れられない。
そういう作品って、
誰にもあると思うし、
きっとあなたにもあるでしょう?
その後、
テレビで深夜に放送されたときに再会して、
ますますこびりつくものの情報はよくわからず。
インターネットの時代になって、
なんでもAmazonとかで手に入るようになったけど、
この映画は日本版のDVDも長らく出てなかったので、
しかたなく輸入版を買ってはみたものの、
リージョンちがいのため自宅のプレーヤでは再生できず。
ま、
そのうちなんとかなるだろうと思っていたら、
2012年に日本版が発売されました。
(2017年現在ブルーレイは未発売で、
DVDも新品は入手困難な状況です。)
下の画像は再生できないまま持っていた輸入版のジャケット。

だいたい、
めったにひとりで映画館に行ったりしないわたしが、
なんでこれ観たのか?
1986年といえば、
社会人になって最初に入った会社を辞めたばかりのころで、
人生にリアルに迷っていたころ。
博多でぽつーんとひとり無職になって、
そのままそこに居つくのもバツが悪いし、
東京へ戻るとなると当時つきあってた彼女とも別れないといけないし、
お金だけがどんどん減っていく状況で、
する仕事もなく昼間から退屈で、
たまたま通りすがりのミニシアターでこれが目に止まったか。
いや、
ちょっと待てよ、
監督ニコラス・ローグといえば‥‥
そうか、
ミックジャガーか!
「パフォーマンス」(1970/主演:ミックジャガー)の監督だと宣伝してあったとしたら、
そこに惹きつけられて観てしまうわ。
あのタイミングにこの中味なら、
やっぱり特別に頭にこびりつくのもうなづけるかな。
はやらせ太郎青年24歳、
希望よりも不安のほうがはるかに大きく、
将来はすっぽり闇の中‥‥
この映画を観た翌月、
1年半だけ暮らした博多を離れ、
ふたたび東京へ移り住みます。